iSRFの沿革

NPO法人化にあたってのご説明

〜ITスキル研究フォーラム会員の皆様へ〜

ITスキル研究フォーラム代表
田口 潤

 ITSSの登場とスキル調査がきっかけ

 2002年6月、筆者らはITエンジニアのスキルアップを支援する専門誌「日経ITプロフェッショナル」を創刊。記事作りを進める中で、ITエンジニ アのスキルを客観的に把握する方法を探していました。「ITエンジニアがスキルを高めるには、まず自身のスキルを知る必要がある」という考えからです。

 時を同じくして策定されつつあったのが「ITスキル標準(ITSS)」です。正式版が公開されたのは2002年12月ですが、ベータ版はそれより半年前の 2002年4月に公開済みでした。「経産省が音頭を取り、IT産業の大手が策定に参加したITSSはITエンジニアのキャリア計画作りに役立つだけではな く、共通の物差しとしてスキル把握に使える」−−こう考えた上で2002年夏、モチベーションやチーム力を測定/診断する専門企業であるザ・ネット社に、 ITSSに準拠したスキル診断システムの開発を持ちかけました。

 ザ・ネット社は2カ月足らずでスキル診断システムを開発し、2002年秋に日経ITプロフェッショナルはITエンジニアのスキル全国調査」を実施しまし た。ITSSに基づき、日本のITエンジニアの職種分布やレベル分布、給与とレベルの関係、現在の職種と将来の希望職種の関係などを、包括的に把握する試 みです。創刊間もない頃にも関わらず、6000人を超える方の協力を頂き、例えばITSSのレベル2以下のITエンジニアが全体の半数を占めるという実態 を、初めて明らかにしました。

 iSRF発足のきっかけは、この調査を知ったIT企業の人材担当の方々から、「自社のエンジニアにスキル診断を受けさせたい。有償でも構わないからサービ スを提供できないか」との問い合わせを頂いたことでした。しかしWebを使った調査を実施するのとは異なり、サービスを提供するのは決して簡単なことでは ありません。

 例えば、どの企業の誰がいつ診断を完了したのかといった受診者管理、IT企業の人材担当者向けの管理画面や情報提供/分析画面の開発、IT企業固有の設 問を可能にする設問カスタマイズ機能の実装といった、システム面の機能充実が不可欠です。それ以前に料金体系の明確化や契約書面の準備も必要ですし、永続 的にサービスを提供できる仕組みも必要になります。


 iSRFを設立へ

 どうすれば要望に応えられるのか−−。「診断を受ける企業や個人は、多ければ多いほどいい。そのためには日経ITプロフェッショナル(日経BP社)とい うメディアが主導する形が望ましい」、「サービスを強化するには、利用企業を増やす営業やマーケティングが必要」・・・。様々な議論を経てたどり着いたの が、ITスキル研究フォーラムという任意団体の設置でした。

 日経ITプロフェッショナル編集部が前面に立ちつつ、システム開発や運用をザ・ネット社が、契約やユーザーサポートを日経BPマーケティング社が、それ ぞれ担当する形です。3社は別に本業を持っていますので診断料金を低廉に抑えられ、その分、利用企業を増やせるという考えもありました。

 2003年初めに活動を開始したITスキル研究フォーラムは、診断システムの名称を「ITSS-DS」とし、これを使った「全国ITエンジニアのスキル 調査」や、企業向けに有償の診断サービスの提供を開始しました。その後、ITSSのバージョンアップに追従、あるいは先取りしてITSS-DSの機能強化 を図るともに、2005年に公開された組み込みソフトウェア技術者向けの「ETSS」に準拠したETSS-DS、2006年に公開されたユーザー企業の情 報システム人材向けの「UISS」に準拠したUISS-DSを順次リリース。ほぼすべてのIT人材のスキルを診断、可視化できるよう、サービスを強化して きました。

 もちろん調査やスキル診断サービスだけではありません。iSRFは「人材の高度化を通じた情報サービス産業のイノベーションに貢献すること」を命題に置 き、先進的なITSS活用事例などを中心にしたセミナーや、ITエンジニア向けの教育コースに関わる情報の集約と研修ロードマップの公開、ITスキル標準 の改訂に対する提言、IT調達に関わるIT人材の可視化などを手がけています。

 この間、年1回のペースで全国ITエンジニアのスキル調査を継続しており、有償によるIT企業の受診者数も合わせると毎年のスキル調査の母集団は3万人 という、この種の調査では例を見ない規模になりました。その結果、IPA(報処理推進機構)が2007年に開始した、IT人材市場動向調査にも毎年協力し ています。

 具体的には、IPAがIT企業の人材担当者にアンケート調査した職種やレベル別の集計結果と、iSRFが個々のIT人材の申告を集計した結果を付き合わ せ、IT人材市場動向調査の信頼性を高めています。詳しくは同調査をご覧頂きたいのですが、調査対象がまったく違うにも関わらず、両調査の結果は極めて高 い一致を示しています。


 任意団体からLLP、そしてNPOへ

 そうした中で、任意団体という組織形態に起因する限界が見え始めました。最も大きいのは、団体としての契約行為ができないこと。実務上、何らかの問題が あったわけではありませんが、外部から見た透明性に課題を抱えていたことは事実です。

 第2は、3社以上にアライアンスを拡大しにくいこと。iSRFはIPAやSS-UG(スキル標準ユーザー協会)、ITTVC(IT教育事業者協会)、JI SA(情報サービス産業協会)、CSAJ(日本コンピュータソフトウェア協会)など様々な団体や、IT人材育成に絡む企業、さらには大学などとの関係を有し ています。しかし任意団体という形態ゆえに、各団体や企業との連携は、iSRFを構成する3社個別にならざるを得ない面がありました。

 そこで2007年を通じて法人化への移行策を検討。組織としての柔軟性や中立性の維持、設立が容易であることなどを考慮して、2008年4月、有限責任 事業組合(LLP)に衣替えしました。これにより上記の問題を解消できましたが、しかしLLPは一般の事業法人とは異なり、契約ベースなので存続期間があ ります。iSRF LLPは発足時点で2年間という期限を定めていました。つまり2010年3月末には、何らかの組織変更を行うことを既定路線としていた のです。これが今回のNPO法人への移行につながっています。

 では、なぜNPOなのか?実は2008年初めの時点でも、NPOへの移行を検討しました。しかしNPOとなると明確なミッションを掲げ、実施すべきこと を定義し、理事会を設置するなど、様々な要件をクリアする必要があります。またNPOとなると、簡単に解散することはできません。こうした点で、2008 年の段階におけるNPO化は時期尚早と判断しました。そこで「まずLLPとして運営する。その間に、任意団体の頃とは異なる活動を実践し、関係諸団体や企 業、大学にiSRFの存在を周知徹底する。2年以内に、組織のあり方を見直す」という方針にしました。


 NPOとしてのiSRF

 現在、個人の生活や企業の事業活動、あるいは社会全体において、ITの果たす役割は重要になる一方です。しかしながら、そのITを構築、提供、運用、保 守する、IT企業や84万人と言われるIT人材を取り巻く環境は、様々な問題を含んでいます。新規システム開発プロジェクトの遅延や破綻、運用中のシステ ムのトラブル、「3K」という言葉に示される厳しい職場環境、優秀な人材への過重な業務負担などはその一例に過ぎないとさえいえるでしょう。

 最近では、中国やアジア、インドなどへのオフショアリングの進展、景気低迷に伴うIT投資の凍結や削減、クラウドコンピューティングなどITを変革する 波が、IT産業、ITエンジニアを襲っています。このままでは日本のIT産業やITエンジニアは、壊滅的な打撃を受けかねません。

 こうした問題に対処するには、ユーザー企業のITに対する意識改革、高等教育機関の改革、IT企業の経営改革など、様々な施策を実施する必要があります。 どれ一つをとっても簡単ではありませんが、あらゆる施策の前提となるのがITエンジニアのスキルやIT企業の提供価値の可視化であることは間違いないでし ょう。優秀な人材や企業、優れた製品やサービスがきちんと評価されるようになれば、自律的にスキル、技術力を高める力が働き、IT産業の高度化につながっ ていくからです。

 そのためにiSRFは、他の関係団体や企業と協調しながら必要と考えられるあらゆる施策をスピーディに実施していきます。NPO法人化を機に、テーマ別 の分科会や研究会を発足させる計画もあります。今後のiSRFにご期待頂くとともに、ご協力・ご支援いただけますよう、お願いいたします。