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2017/10/20 (第89回)

AI(人工知能)活用を推進するために理解しておくべきことは?

ITスキル研究フォーラム データ利活用人材 ワーキンググループ主査
株式会社チェンジ 執行役員

高橋 範光

 気づけば、2017年も終盤戦を迎えようとしている。今年は、ほぼ毎日、AI(人工知能)のキーワードが新聞を飾ったのではないだろうか。古くて新しいAIというワードは、IT系の展示会に行っても、セミナーに行っても、そこかしこに登場するようになった。当社にも、AIの引き合いやセミナー登壇の依頼がひっきりなしにあり、まさに昨年のブームでもあったキーワード「IoT(Internet of Things)」と同じような状況である。

 では、企業で実際にAIの導入が進んでいるかというと、多くの企業が検討は進めているものの、なかなか導入には至らず、いわゆるPoC(Proof of Concept:概念実証)にとどまっているのが現状である。これもまた、IoTと似たような状況だというのが、ユーザー企業の導入担当、ベンダーの共通見解であろう。

 一時期のAIに対する多大な期待を抱く企業は、さすがに減少しつつある。しかし、AIは何ができ、何ができないのかということを正しく理解しないままに、AI導入検討が進み、その後頓挫するというケースはまだまだ後を絶たない。

 「AIが目的ではない」という話もよく耳にするが、筆者はAIが目的、というか考える出発地点であってもよいと考えている。というのも、「AIでないといけない」という必然性を感じるようなシーンはほとんどないからだ。「AIを使おう」と思って考えようとしない限り、AIというソリューションにたどり着くことはまだまだ少ないだろう。

 ある特定の業務に対して、AIという「限りなく人に近い思考をする機械」を導入するということを考えてみよう。

これまでその業務に人をアサインしていなかったのであれば、そもそもその業務が必要というわけではなかったのだろう。また、その領域に人をアサインしていたのであれば、その人をAIに置き換えるのに十分な説明が必要となってくるが、残念ながら現在のAIは人を置き換えることによってできなくなることも多い。

 ここに書いたのは典型的なAI導入がうまくいかない場合の思考プロセスを記載したものだ。だからこそ、むしろ勢いよくAI導入を出発地点に進める企業の方が案外うまくいくケースもある。

 これからAI導入を検討する企業も多いと思われるが、ただ勢い任せにAIを出発点に議論をすればいいというわけではないので、今回はAI活用を推進していくために理解しておきたい点について紹介したい。

 最初に理解しておきたいのは、「AIは完璧ではない」ということである。

 われわれは、AIがクイズ大会でチャンピオンになり、AIが囲碁の世界王者を負かしたという報道によって、AIが完璧だと勘違いしてしまうが、これは閉ざされたルールのあるシステムにおける結果でしかない。実際にわれわれの置かれた社会は、様々な外部要因によって状況が変化する。そこでAIを活用しようとすると、当然「想定外」のことが発生し、うまくいかないケースが増えるのだ。

 わかりやすいケースで考えてみよう。

 「話した言葉をテキスト化する業務」をAI化するというプロジェクトがあったとしよう。特殊な専門用語や略語、さらには外部のノイズでかき消された言葉を正確に表現できないAIを見て、「AIは完璧だ」と思っていた担当者はがっかりしてしまう。これでは、いつまでたってもAIの導入は進まない。おそらく100%正確にテキスト化できるまではAI導入を延期することになるだろう。

 では、既に導入を進めている企業は100%の精度を達成できているのだろうか。いくつかの企業でコールセンターの逐語録をAIで作成する取り組みが進んでいるが、精度は8割〜9割だといわれている。

なぜそれでも導入するのかというと、テキスト化の精度よりも、放棄呼(お客さまからの電話に対応する前にお客さまが電話を切ってしまう)率や顧客満足度を問題と捉えているからだ。たとえ入力精度が下がったとしても、それによって顧客に対する満足が向上するのであれば、よりよいだろうと判断しているのだ。

 そして、次に理解しておきたい点、というよりも忘れるべきではないのが、「人も完璧ではない」ということである。

 最近では、AIによるリアルタイム翻訳をさせたいという話もよく聞く。しかし、この業務は人がやっても簡単な仕事ではないし、集中力も必要となる。経験が浅い担当者であれば、当然誤訳や聞き漏らしも引き起こすし、1時間も連続して行うのはほぼ不可能だといえる。むしろ集中力という点に関していえば、AIの方に軍配が上がるだろう。

 ここまで挙げてきたように、AIも人もお互い完璧ではないからこそ、それぞれが相互補完できれば、目的が達成できるのではないかということ。これが理解しておきたい点の3つ目である。

 富国生命保険は、実際に保険給付金の査定業務において、診断書から必要な情報を読み取ってデータ化する業務をAI化したといわれているが、この業務では、そもそも「人もミスをする」ことを前提にダブルチェックをしていた。AIを導入することで、AIがデータ化したものを人がチェックするようにしたことで人件費の削減に成功している。

 現在のAIはまだまだ発展途上である。それを利用するということであれば、完全自動化を目指すのではなく、AIと人がどのように相互補完可能かを考える必要がある。人が現在行っている業務を置き換えるという視点で考えるのではなく、AIと人が相互補完の関係にある新たなユースケースを考えることが重要であるといえる。

 最後に、冒頭記載したような「AIブーム」は数年たてば下火になるかもしれない。とはいえ、このAI化の流れはおそらく止まらない。たとえ現時点でAI導入の必要性を説明できなかったとしても、AIは便利なものであり、そして人は便利なものに流れていくからだ。AIブームの終焉とは、AIが廃れる状況を指すのではなく、AIがわれわれの業務に当たり前のように入り込んでくる状況を指すと考えた方がよい。

 その時、AIを当たり前のように使いこなせているかどうかは、AI活用をどれほど真剣に考えられるかどうかが鍵になる。そのためにも、単に他社事例中心の調査や、PoCにとどまるのではなく、AIと人が相互補完可能なユースケースを考えることから始めてみてほしい。


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