人材育成コラム

リレーコラム

2014/02/17 (第48回)

文章の力

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ CSR統括本部 ブランド・コミュニケーション本部 本部長

石川 拓夫

 毎日、社内のSNSに日記を投稿している。社内でSNS活用によるコミュニケーション活性化の取り組みが始まって7年目、我ながらこんなに続くとは驚きである。今では社内に楽しみにしてくれている読者も多い。あまり接したことの無い社員の方から、石川さんのことは良く存じ上げていますと言われるとドキッとする、ここがSNSの凄いところで、日記の読者であれば初対面でもお互い旧知の間柄のような気になるのである。このように社内SNSは、グループ全体で1万5千人のコミュニケーションの一助になっていて、リアルにはなかなか絆が結べない人同士も繋ぐ効果が出ている。

 「毎日書くのは大変でしょうね」「よくいろいろなテーマでかけますね」と言われる。しかし実のところは、言われるほど無理しているのではなく、書きたいことを書いている。出講したイベントの話、研究しているコンピテンシーの話、面接の話、会社行事の話、家族や子供の話、故郷の話、歴史の話、食べ物の話、社内のマナーの話、書評…などなど。基本的には就業の30分〜1時間前に出社し、始業の鐘がなるまでの間に書いて投稿する。これが日課になっている。社内に向けて書いてはいるが、最低限は自分の配下に向けた備忘録として書いているところもある。私の配下は私の日記をみて、私が何を経験し、何を感じ、何を考え、何をやろうとしているかを読みとる。多くの社員に向けた日記と言いながら、実は本質的にはこれ以上でもこれ以下でもないのかもしれない。

 なぜ書き始めたかと言うと、人財(社員)の活性化が私の長年のミッションだからである。これは前職の人財開発部でも現職のブランド・コミュニケーション本部でも同じである。上から目線でなく、自分も社員に交じって活性化の一助になれたらと、最初は戸惑いながら書き始めたのを覚えている。話題を提供し、みんなが議論してくれればと考えた。

 7年前の日記を読み返すと、力が入っているのが良くわかる。テーマが業務に関するものが多く、内容も硬く長文が多い。人事部門など恐れられはすれ、理解はされにくい部門だと自覚していたからだ。その誤解を解こうと、こんなことまで考えてやっているんだよと訴えかけるものが多い。日記と言うよりは小論文である。今から思えばやや独りよがりで赤面するが、これはこれで社内から真面目な反応があって、こちらが活性化させてもらったりした。

 立場上、書けないことも多い。会社のSNSで社員の絆を深めることが目的なので、個人的な信条や時事問題に関する批判、企業秘密に関することなど、書けないことばかり。そんな中、「これはここまでなら許されるだろう」とか「これは社員にぜひ知って考えてほしい」という自分なりの判断で、ギリギリの線で書いてきた。日記が炎上したことも1度や2度ではないが、その都度丁寧に誤解を解いたり、独りよがりな理解を諭したりしながら切り抜けてきた。(私の日記は行間を読まないと理解できないと良く言われるゆえんである)

 一番難しいのは、日記を書くことではなく、社員のコメントに返事を書くことである。顔の見えない、よく知らない社員に対して、コメントの背景が分からずに返事を書くことの恐ろしさは並ではない。でも、やり取りによって周囲も議論に加わり、みんなで理解が深まっていく時には、良かったと思うことは多い。

 また、あるとき役員の一人から「石川君はSNSに毎日日記を書いているんだよね。凄いね。私は立場上真似できない」と言われたことがある。私は、その方はコミュニケーションの大切さを良くわかっている人だからこそ、できないと決めつけないで、社員の意見交換に加わってほしいと思った。社員は未熟ではない。社内のSNSの暗黙のルールを守って節度ある議論をしようとしている。新たなモチベーションの手法として、またリーダーシップの発揮場所としてその可能性を試してもらいたいと思った。ただ、プラス効果は未知数で、マイナス効果は予測できるだけに、無理強いは難しい。でもコーポレートコミュニケーションの必要性の高まりにより、SNSの活用は避けて通れないことだと思っている。

 さて、私がこのコラムに今まで寄稿してきたのは、実はすべて社内のSNSに書いてきた日記である。数カ月に一度順番が回ってくるので、その期間に書いたものの中でiSRFの皆さんと共有したいと思った日記や社内で受けが良かった日記を3篇選んで編集長に送って、1篇を選んで頂いている。編集長は百戦錬磨なので、私が力こぶで書いた力作が選ばれることはほとんどなく、読者にとって最良だと思われるものを必ず選んでくれる。(笑)この選球眼は大変私の勉強になっている。

 書きたいことと皆さんが読みたいと思う内容は必ずしも一致しない。こんなことが分からずに一方的に書いている未熟さが私の日記にはあるということが良くわかる。まだ選球眼の鍛え方が足らないので、これからも一方的かもしれないが、皆さんと共有したいと思うことを寄稿させてもらいたいと考えている。

 最後に、ある時部下が言った言葉を紹介して終わりたい。
「石川さんは文章の力を信じているんですよね。日記を読んでいてそう思います」
 時代遅れかもしれないが、これからも自分の考えや感じたことを文章にしていきたいと思う。例え稚拙な文章でも読んだ誰かが何かを考え始めてくれれば本望である。


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