人材育成コラム

リレーコラム

2012/12/19 (第34回)

隣の席の気になる話

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ 人事総務統括本部 人財開発部 部長

石川 拓夫

 土曜日の午前、コーヒーショップに立ち寄った。コーヒーを飲みながら新聞や 本を読み、ゆっくりとした時間を楽しむ。秋から子供の習い事に合わせて習慣に なった。
 いつもはゆったりとしている店だが、この日はめずらしく混んでいた。空いた 席に座ると、隣に必死でメモをとる若い男性と絶え間なくまくしたてる若い男性 という組み合わせの二人が向かい合っていた。席が近いので声がよく聞こえる。 嫌な席に座ってしまったなと思ったが、二人の様子とちょっと耳に入ってきた話 の端から、少し興味が湧いてきた。そのまま新聞を読みながら、なんとなく耳に 入るに任せていた。他人の話に聞き耳を立てるのは下品だが、聞こえてくるのだ から仕方ない。

 一人は大学三年生でこれから就活を始める学生。もう一人はその先輩なのか知 り合いなのか若い社会人。その話しぶりから、入社1〜2年だろうと想像できた。 途中から座ったので話の流れや全体像はよくわからないが、聞こえてきたのはグ ループワークの対応で重要なポイント、面接で人事が見ているポイント、全般的 な就活の心構え、…などであった。
 聞き耳を立てていた訳ではないので、断片的にしか聞こえなかったが、印象深 い内容もあった。
(1)グループワークは、必ず答えがある。答えがあるのだから、できるだけ早く見つける方が有利
(2)進行役がリーダーではない。進行役をリーダーと思っていて希望する人は多いので、自分はそんな人に任せた。本当のリーダーシップは、ワークの中の議論で発揮できる。大切なのは、自分の考えを論理的に纏めて主張すること。考えずに発言する人が意外に多く、そんな人はすぐに沈黙する。こんなところを人事はよく見ている。
(3)面接でも同じで、人事はどれだけ考えて、自分の意見を論理的に構築してるかを見ている。意見が正しいかどうかではなく、自分で考えて論理的に意見を構築できるかを見ている。そのためには日頃から、物事に対して一方的ではなく(彼は批判的な見方という言い方をしていた)多面的な見方をし、奥深い意見構築をする訓練をしておく必要がある。

 (1)は、いかにも今風の若者の推測であり、それはおそらくは無いだろう。 むしろ答えのないものをどうまとめていくかの特性を見るための選考プロセスだ と思うので、少々ミスリードか。まあ、秀才を採用したい企業は違うのかもしれ ないが…。

 (2)はその通り。目立たなくてはと進行役(だいたいリーダと呼称するので ややこしい)を買って出る学生は多いのだろう。我々の業界とは異なり、商社な ど営業会社ではこの傾向はあるかもしれない。でも進行役は、それ自体リーダー シップを発揮しているとはみなされない。むしろ纏める力の無い人が、進行役を 逸脱し纏めようとするとグループワークは崩壊する。

 グループワークでのリーダーシップは、先頭を走ることだけではなく、サーバ ントなリーダーシップもあれば、フォロワーなリーダーシップもある。また一度 だけしか発言しなかったが、それがグループワークの方向性を決定付けるという リーダーシップもある。
 優れた人事担当者は、そんなすべてのやり取りを見聞きしてジャッジしている のである。物事を深く考察して、自分の意見をスピーディーに、かつ論理的に構 築し説明できることは、組織人として要求される基本的な能力だろう。

 (3)も同感だが、批判的な見方でと言うのは行きすぎると障害になる。一方 的な論理にならないように、反証したり多面的に考察して見ることで、より納得 性の高い意見となろう。これができる学生とそうでない学生は、社会人から見て 段違いに見える。
 ただし、一方では組織人になろうとしているのだから、スマートな展開が求め られる。ただの協調性ではなく、チーム全体の意見を集約しようという考えに基 づいた反証や多面的考察が求められるだろう。ここのバランスも、優れた人とそ うでない人の違いは、アセッサーには明確に見えるものである。

 盗み聞きした訳ではなく、横の大きな声の話が聞こえてきただけだが、新聞よ り興味深く考えさせられた。実際の就職活動は12月から始まるが、学生にとっ てはすでに夏休みから就活は始まっているのだ。
 最も印象深かったのは、学生が真面目に何ページにもわたってノートにメモを とっている姿だった。相手の手前、メモすることも大切だが、なにより自分に自 信を持つことが大切だろう。今の就活はただの秀才では乗り切れない。結局、生 まれてから今までに、行ったり考えたりしてきたことが試されるのだから。
 実践もできないのに、分かった気になるのは危険なことだろう。なりすまそう とすることは、もっと危険なことだろう。
 今年も学生にとっては厳しい社会の洗礼の時期が始まった。

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