人材育成コラム

リレーコラム

2012/09/25 (第31回)

アンラーニングの勧め

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ 人事総務統括本部 人財開発部 部長

石川 拓夫

 アンラーニングという概念がある。ビジネスパーソンの成長において、現場経 験の重要性を否定する人はいないだろう。特に我々のような専門職の世界におい ては、体系的な知識修得だけではなく、長期的な仕事経験を通じた学習プロセス が不可欠であり、「熟達化」することが必要とされる。

 この「熟達化」は、安定した環境下では、長い間獲得した経験値を継続的に活 用できて有効である。一方、環境変化の中では、かえって新たな変化への適応を 妨げることになるとも言われている。だから今日の日本のように、業界及び企業 が厳しい環境変化にさらされていることを考えると、この「熟達化」によって獲 得したものの中の、因習化した知識や時代錯誤の価値観を「いかに捨てるか」が 大変重要になる。この行為を「アンラーニング(学習棄却)」と呼ぶ。

 このアンラーニングにおいては“主体的に”捨て去ることが大切とされる。誰 かの指導で捨てされるものではなく、「自分と世間のズレ」に自ら気がつくこと が大切だからである。自分と異なる何かを持つ人に対して、「相手が変だ」と思 うのではなく、「自分の方が変だ」と思えるかどうかがアンラーニングのポイン トとなる。

 しかし、このコラムでもたびたび書いてきたが、人間は本来、保守的であり、 その中でもITエンジニアは長期間かけた「熟達化」が強く求められるからこそ、 一段と保守的である。だからアンラーニングするのが、本来困難な人種であると いえる。

 また他の職業と隔絶した特別な職業として長らく扱われてきたので、組織や個 人のコンピテンシーが同質化している。こんな中では、自分こそが異質であると うすうす気がついても、目をそらしてしまえば、今まではそれはそれでなんとか なった事実もある。自分が異質だと思うことよりも、相手が変だと思い込むほう が苦くないのである。

 このような中で、成長するために「アンラーニングするにはどうしたら良いの か?」−−。それは考えや価値観の異なる人々とのネットワークに積極的にアク セスして、自分を客観視する経験を積むことだと思う。考え方や価値観が異なる 人々との交流を通じて自分にとっての当たり前が揺さぶられる経験こそが、アン ラーニングへの切っ掛けとなろう。このネットワークは、一般的には目的を同じ くする社内には求めにくい。だから社外のネットワークに求めるのが妥当だろう。

 今までも「成長のためには個人の客観視が必要だ」と書いてきた。ただ、論拠 を明確に説明できていない気がしたので、今日はアンラーニングという切り口で 説明してみた。

 環境変化の厳しさは、誰もが強く感じている。そんな中で自分らしく生きるた めに我々のような専門職の世界では、専門的な知見を高める「熟達化」は依然と して求められるだろう。だが獲得したものに固執して良いかどうかは、常に考え なければならない時代になったようである。道筋を将来予測も含めてすべて会社 が指し示せたらよいのだろうが、それは起こっている複雑な状況を鑑みると不可 能だろう。個人が自分の成長のためにも、「熟達化」か「アンラーニング」かを 考え続けることが必要な時代になったと思う。

 厄介な時代だが、変化があって楽しい時代とも言える。要は考え方次第である。 与えられた環境は、世界規模で同じなのだから、繋がる相手は世界中に居るとい うことである。

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