人材育成コラム

リレーコラム

2011/11/15 (第21回)

プロフェッショナリティについて考えよう

ITスキル研究フォーラム 理事
フロネシス経営研究所 主宰/富士ゼロックス総合教育研究所 アドバイザリーフェロー

出馬 幹也

 プロというのは、期待されることを越えるほどの満足を提供し、アマチュアや ボランティアとは異なる対価を得ていく人材のことに他ならない。ではプロとは、 医師や建築士のような、専門職のことだけを指しているのだろうか? 当然そう ではない。一般的に“サラリーマン”と称される人々も仕事における対価(給料、 処遇)を得ている、という点において、なんら他の(目立ち易い種類の)プロと 変わることはないはずである。

 ところが、今の経済社会を停滞させている要因の、かなりミクロの要因に含ま れる一人ひとりの“意識”という点においてこの、「プロである」という自覚の 希薄さがあるように思えてならない。

ケース1 「自分はここまでです・・・」

 極端な物言いで恐縮だが、自分自身で仕事の範囲を限定できる人はこの世の中 には一人もいない。なぜならば、仕事、特に対価を得ていく種類のプロとしての 仕事においては、関係先が必ず存在し、そのすべてにおいて期待と成果に認識が 合致する中で進められていくものが仕事であるからだ。つまり、関係先の意向や 事情の変化を無視して、自分の範囲は決まらないのである。

 どこまでも関係先に振り回されていたら契約は結べない。また、「どこまでも コキ使われて、終わりが無くなってしまうのではないか」という、恐怖にも似た 感情に襲われると、多くの人は「自分の仕事はここまでです」と口にし始める。 すると関係先はその発言を境に、その人のプロフェッショナリティを疑い始める。 当然、関係先自身も、条件変更が重なったり、途中段階で気持ちが変わったりな どのことが仕事の手戻りを作ること、それが決して望ましいことではなく、むし ろ決めるべきことをきちんと決めて進められれば、そのほうが素晴らしいという ことは分かっているのである。そんな中で、一方的に境界線を引かれてしまうと したら? 理屈をこえた感情的な部分で、満足感とは遠いものが生まれてしまう ことだろう。

ケース2 「私はプロですから!・・・」

 「プロである」ということを自分で本当の意味で自覚している人程、自らのこ とを常々プロだというようには表現しない。たしかに他のアマチュアとは違う、 すばらしいスキルを有していたとしても、それだけにおいてプロであるといえる 前提は揃わない。

 「私はプロですから!」という言葉の次に、「だから私のことを認めなさい」 「私が作るものを高く評価しなさい」という言葉を隠しているとしたら・・・。 それこそ傲慢の極みである。高いスキルとその表出は、プロであることを証明す る1つの必要条件であって、それ以外に大切な事があるのだ。他の人材ではなく 自分のことを信じて、仕事を任せてくれた関係先(クライアント、顧客)と作り 上げてきた仕事のプロセス(一番最初の相談から、途中段階での協議、最終成 果にたどりつくまでの入念な作りこみ等)が、どれだけ互いにとってhappy、 かつ、学びに溢れた経験であったかということ。それこそがプロが作る本当の顧 客満足であり、プロであるということのもう1つの必要条件である。

 上記のとおり、自分自身が一方的に思い込んで行なう仕事のスタイルにはプロ フェッショナリティは存在し得ない、と私は思う。実際、ケース(1)のような 場合、後日談として、自分自身の仕事を限定してしまった人材には次回の発注は 無くなる。一方、限定しない人材(どこまでも関係先と対話しながら、多少の契 約範囲外を含めて懸命に取り組んでくれる人材)には、次々に相談が舞い込み、 さまざまな良き関係先に囲まれ、安定的に高い評価を得ていくようになるものだ。
 ケース(2)においても、自己主張だけのプロフェッショナリティにはその意 識を挫かれる事態や事故が発生した場合、そこから反省もなく改善・成長もしな い人材は、さまざまな意味で寂しい人生を送ることになる、ということも容易に 想像がつくのではないかと思われる。

 要するに重要なのは、サラリーマンを含めて仕事で給料・処遇を得ている人材 は、仕事の関係先との間で良きリレーションを構築し、その中で継続的に満足や 感動、安全・安心を提供できるよう、謙虚に反省を繰り返し、新たな価値創造に 向け、学習と変容(これこそが成長)を続けていくこと−−。これが必要不可欠 であって、プロであることの深い自覚によって可能になる姿勢なのである、とい うことを改めて考え直してみたいと思う。

 閉塞感ただようこの時代、この意識・姿勢を社会に取り戻すことが必要ではないだろうか。

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