人材育成コラム

リレーコラム

2019/02/20 (第105回)

今、データサイエンティストについて考える〜データサイエンティストは本当に魅力的な職業か?

ITスキル研究フォーラム AI人材ワーキンググループ主査
株式会社チェンジ 執行役員

高橋 範光

 データサイエンティスト育成に関する取り組みは、ここ数年で大きく進展した。以前はデータサイエンスに関心がなかった企業でも、ここ最近では急速に人材育成に力を入れ始め、数百人から数千人規模でのデータサイエンティスト育成を目標として掲げる企業も出てきている。一般社団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティストのスキルチェックリストを作成・公開し、日本におけるデータサイエンティスト育成に取り組んでおり、滋賀大学や武蔵野大学などいくつもの大学でデータサイエンス学部ができた。つい最近、東京大学が社会人データサイエンティスト育成を行う企業を立ち上げるという発表もあった。
 また、データサイエンティスト育成は、地方創生の文脈でも語られるようになり、全国でデータサイエンティスト育成の取り組みが行われ、筆者もこの3年ほどで、出張が増え、様々な地域におけるデータサイエンティスト育成に取り組んでいる。

 そして、もう一つのトレンドがある。2015年ころから、ディープラーニングの発展、ライブラリがオープンソース化されたことで、AI人材育成も加速してきている流れである。AI産業は国をかけた取り組みとして注目され、政府は、データサイエンティスト育成同様に、AI人材育成の強化を唱え、経済産業大臣認定や各種補助金の適用に力を注いでいる。
 年収の側面でも変化があった。人材の不足は世界規模で起きており、米国では、年俸の上昇率上位にデータサイエンス関連の職種が並び、2000万円とも3000万円ともいわれている。国内でも、NTTデータはAI人材に対して、2000万円〜3000万円の年収を支払うアドバンスド・プロフェッショナル(ADP)制度」を新設した。
 このように、「データサイエンティストが不足する」「AIを核とした世界規模の産業競争に負けてはならない」という一種の危機感が生み出したここ数年の大きなトレンドの変化は、確実なものとして感じられるようになってきた。

 一方で、筆者や筆者の周辺では、まだまだデータサイエンスが普及しておらず、データサイエンティストが注目されていない現状を感じている。「データサイエンティストは21世紀最もセクシー(=魅力的)な職業である」という話が5年以上前にいわれたが、今も同じようにデータサイエンティストはセクシーな職業であるといえるのであろうか。
 例えば、「なりたい職業ランキング」では、上位にサッカー選手や野球選手、公務員などが並ぶ。最近になって出てくるようになったのは、ゲームプログラマーやユーチューバーであり、データサイエンティストという職業を見ることはまずない。
 いくら人材育成環境が整ったとしても、そもそも「データサイエンティスト」になりたいと思う人材が増えない限り、前述した大きなトレンドは提供側だけに留まってしまい、いずれ立ち消えてしまいかねない。

 では、このトレンドをより大きくし、データサイエンスを普及させるために何が必要なのだろうか。それには3つあると考えている。
 1つ目は、データサイエンティストの“就職先”である。自動車を作りたいなら、自動車メーカーに就職する。パイロットやCAになりたいなら、航空会社に就職する。広告を作りたいなら、広告代理店に就職する。ITに携わりたいなら、システム会社に就職する。では、データサイエンティストになりたければ、どこに就職すればいいのか? データサイエンスを専門とする企業もあるが、まだまだ多くない。そして多くの企業が、全くの未経験者では就職が難しい。自ら起業するという手段もあるが、当然リスクもあり、多くの人はそんなに簡単に起業できるわけではない。
 ただ実際は、どの企業でもデータサイエンティストを求めているが、データサイエンティストという職種や募集がないというのが実態であり、アンマッチが起きている。人事のスペシャリストや、経理・財務を極めてCFOを目指すというように、「データサイエンス」も企業内での役割やキャリアが明確になることが求められているのではないだろうか。

 2つ目は、“分かりやすさ”である。メーカーはものを作り、システム会社は情報システムを作る。では、データサイエンティストは何を生み出すのか?この答えをできる限り分かりやすく説明できるかどうかが重要だと考える。
 例えば、トップユーチューバーを輩出するためには、ヒットするコンテンツを分析するためのデータサイエンススキルが求められ、データサイエンティストが存在しているケースもある。しかし、このような事実はあまり知られておらず、いわば裏方の職業となってしまっている。今後データサイエンティストをどうやって表舞台に出していき、どのような価値を生み出す職業かを、もっと業界全体でアピールしていく必要があるだろう。

 そして、最後の3つ目が、先ほども記載した“魅力”である。たくさん稼ぎたいのであれば、外資系金融や投資会社を目指し、安定を求めるのであれば、中央官僚や公務員を目指す。データサイエンティストという職種は最も魅力的な職業だといわれ続けているが、いったいどのような魅力があるのか、まだまだその魅力は多くの人に伝わっていない。
 年収を上げる制度を作る企業の多くも、どちらかというと採用よりも離反防止の側面がまだまだ強い。よく「優秀なデータサイエンティストを見極める」という言葉を耳にするが、むしろ「優秀な人材がデータサイエンティストになることで優秀なデータサイエンティストを増やす」ことが重要であり、職種間での競争だと考える。そのためにも、魅力をどのように伝えていくか。「あの人のようなデータサイエンティストになりたい」と言われるような人材の輩出が求められているのではないか。

 データサイエンスの普及に向け、人材不足による危機感から育成に関する様々な施策が打たれるようになった。今後は、危機感からのアプローチではなく、次のステップに上がったことを理解し、よりデータサイエンティストという職業の認知を広め、魅力的であることをアピールするための施策に移行していくことが必要であると考える。


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