人材育成コラム

リレーコラム

2010/05/17 (第4回)

世の中は不条理?

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ  人事総務統括本部 人財開発部 部長

石川 拓夫

 新入社員教育の季節です。その彼らには、「世の中には絶対的な正解は無い。特にソリューションにはこれだという正解は無い。だから不条理だと嘆くのではなく、まず呑み込んでみろ」と伝えています。
 なぜか。それは、マニュアル世代の性向として短絡的な絶対的正解を欲する傾向が強いからです。そのまま配属となると、無意味な、そして場合によっては大きな挫折を味わうことになるという懸念があるのです。

 マナーの講義でも、「正解を記したマニュアルはもらえないのか」という声が出る世代。自己中心的というよりは、世の中はステークホルダー達との共存共栄というリアリティを学ぶ機会が薄かったからだと思われます。この点では学校教育の弊害を感じます。

 ビジネスには相手があるのが当然だと理解できれば、自分がなにを行うかという問題よりは、相手がどう受け止めるかの問題が重要だと気づくはずです。顧客が条理だと思う方に無理があるのです。このことを自分しか見えないオンリーワン世代の新人たちにどう教えるか・・・。
 ここら辺は、新人教育の隠れた、でも重要なテーマです。

 先日参加したある社外の会合で、マスコミの方にこの話のさわりをしました。「新人には、世の中はどだい不条理なものだと教えている」と。するとこの方は即座に、「石川さん、それはいけない。イエスマンを育てる教育をしてはいけない!」と強く諌められました。
 これまた懐かしい響きと理論であります。イエスマンを育てようなどとは露ほど思わなかったので、このような解釈は自分の就活のころの30年前に戻ったようで、とても新鮮でした。

 もう一度この方に、今度は詳細に私の仮説を説明しました。「今の新人はゆとり教育のマニュアル世代。なんでも学校教育の延長と無意識無自覚に思っていて、ビジネスにも「正解」を求めがちである。でも実社会は矛盾に富んでおり、短絡的な正解などない。ましてサービス業にはこれを提供して正解などない。だから世の中は不条理なもの。一度この不条理を呑み込んでみろと教えている」と。すると、「でもやっぱり不条理だと認識すると、若い正義感や改革意識・意欲を損なうことになるからやめた方がいいと思う」と言われました。はて、どうしようかと思い悩んでいる次第です。

 今最終面接を行っている学生も優秀な学生が多いのですが、共通していることは秀才タイプだということ。なぜか?入試制度の変化も影響しているのでしょう。高校内でコツコツ勉強して、成績を積み上げると指定校推薦などで有名大学に進学できる。だから面前にある課題の正解を求め続ける秀才タイプが多くなるのかもしれません。このようなタイプには、自ら課題形成した経験がない−−という、これまた共通した課題が見え隠れします。

 だから物語が無いのです。自分のキャリアを語る際に物語が語れないのです。これは一昔前には学生には大変忌み嫌われたことでありますが、現在はステークホルダーの視点が弱く、自己認識だけが特出しているので、物語を語る必要があまりないのか、問題とは思われていないようです。

 ここで書いたことは、最近新卒の面接や新人教育でギャップに悩んでいることの一端です。最近つとに思います。30年前の自分の基準を持ち出してはいけないのかもしれないと。

 昨日、大学を数年間休学して海外を放浪した学生を面接しました。私にはこの数年間の休学が、かれの言うところの成果(ある悟り)と比べて妥当なのか、どうしても理解できませんでした。私であれば、まずは両親の顔が浮かぶだろう。苦労して工面して送金してくれる両親の顔が。これを無視してまで海外を目的もなく放浪することを選ぶだろうか。

 確かに得難い経験は積めるでしょう。必ずや彼の人生の糧となるでしょう。でも数年間の休学の成果が、海外に行かなくても悟れる内容であれば、なぜ海外なのか意味がないと思ってしまうのです。彼に問いました。「なぜ海外でなければならなかったのか」と。彼はしばし返答に窮しました。彼にとって海外は当たり前すぎて特別な理由などなかったのでしょう。このベースのギャップが典型的な例です。

 最近はこのようなギャップを消化するのに大変苦労しています。そろそろ面接定年なのだろうか、と真剣に考えてしまうようになりました。

この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム