人材育成コラム

編集長インタビュー

2010/11/19

ビジネス戦力と連動した個人のキャリアアップを推進

お相手 篠坂 勉 氏 (富士通コンピュータテクノロジーズ 執行役員)

聞き手 小出 由三 (iSRF通信編集長)

(※ お相手、聞き手の所属、役職等は記事掲載当時のものです)

 富士通コンピュータテクノロジーズ(FCT)は、組込み技術のスキル診断を導入し、スキルの見える化を図りました。今のスキルレベルや、次に目指すレベルを見える化して、より具体的なスキルアップ・プランにつなげるのが狙いです。導入の経緯や結果を、FCT組込みシステム技術統括部長である篠坂勉・執行役員にお聞きしました。

──  今回、スキル診断を導入することになったきっかけはなんですか。


篠坂 2009年度に、もう一度改めて富士通コンピュータテクノロジーズ(FCT)という会社のキャリアアップ・プログラムを見直して作ろうということになったんです。背景には、ビジネス戦力と連動した個人のキャリアアップを考えていこうということがあります。当時、社長からもこれに対して次のようなメッセージが出ました。

社長メッセージ

 当社は「ユニークで存在感のある組込みシステム開発専門会社」を目指しています。その発展の原動力になるのは“一人ひとりの社員”です。みなさんの技術スキルの向上がそのまま会社の強さにつながると考えています。当社にとって皆さん一人ひとりが大きな財産です。
 今般、新しい人材育成制度「FCTキャリアアップ・プログラム」を導入します。本制度は皆さんが様々な職務を経験する機会を提供し“一人ひとり”のキャリアアップを支援することを目的としています。新しい制度と以前からある教育カリキュラムの充実によって皆さんがより高い技術者に成長できるように支援していきます。
 “グループへの貢献”、さらには広く“社会への貢献”という責務を果たすため、ユニークで卓越した技術集団となることを目指していきましょう。

篠坂 FCTキャリアアップ・プログラムには、研修/資格取得支援、ローテーション、FA制度、プロジェクト応募制度、エンジニアをプロジェクト間で交流して技術を蓄積いくという制度などがあります。その中の一つにFCTスキル標準というものを定めましょうということになったんです。目的は、今のスキルレベルや、次に目指すレベルを見える化して、より具体的なスキルアップ・プランにつなげることです。


──  スキル診断の具体的な方法を教えてください。


篠坂 弊社のスキル標準は、情報処理推進機構(IPA)が策定した組込みソフトウェアの開発スキルを測定する指標であるETSSをベースにしています。そのETSSを使ってスキル診断をするサービスがあり、私どもは「ETSS-DS」を使いました。ただ、そこで提供されている標準のスキルだけでは足りないので、弊社が持っている独自スキルを併せて見えるようにすることにしたんです。まず、我々の各部門で今持っているスキルを全部抜き出してみて、それを項目としてマージしようと。それから開発技術などでは、我々のほうが社員にぜひこういう技術を身に付けてくださいと推奨しているいくつかの技術がありますので、そういうものも追加してみようということで、最終的には標準スキル+独自スキルという形でマージしました。


個人だけでなく、組織の技術スキルを見える化

篠坂 もう一つは部門スキルということで、キャリアマップテンプレートというのを作りました。実は、先の項目数はものすごく数があります。そのため、あるプロジェクトに所属する社員からすると、今必要なスキルが何で、そのプロジェクトで次に何をしなければいけないから、じゃあこういうことをやろうということが見えてくれないと困る。そうしたことを見やすくするために、絞り込むというと変な言い方かもしれませんが、そのプロジェクトに沿った形で項目が抽出できるようなテンプレートを作ってみたんです。

 実はこうすることで、個人だけでなく、プロジェクトとか、部門とか、さらには会社としての強みとか弱みが見えるようになります。それによって、結果に沿ってどのように人材育成しようかというに加え、プロジェクトとして何を次にやろうかということが見えるようにしていこうということで、これにトライアルしたんです。


──  実際に診断されて、結果はいかがでしたか?


篠坂 他社の結果が公開されていますので、弊社の標準値がだいたいどんな感じになっているのかがわかりました。結果的には、非常に標準値ぽく出てきたという感じでした。それから、個々人が受けてみての感想としては、客観的に自分の現状が大体どれくらいにあるのかが分かって参考になったという意見がありました。

 一方で、あまり客観性が無いデータになったかなと疑問に思うこともあります。というのも、設問が単語単位なので、こういう技術ということだけが書かれてあって、それが自分ができるとかどれくらいできるかを自分で判断して記入していく形式だからです。ちょっと遠慮がちな控えめな社員は「いや、まだまだだな」ということになりますし、自信もっている社員は「十分できている」と設定されてしまう。上司から見るとちょっと違うかなという印象を持たれたみたいで、もう少し客観的に見られるようにしないといけないかなというのが、一つの反省点です。

 弊社の都合ですけど、今回は「ファームウェア開発」に主眼を置いて項目を検討したんです。結果、ハードを開発している人から見ると、項目的にどれを選んだらいいのか迷ったり、自分に該当するものが無いことがありました。それ以外にも、出来上がったプログラムを検査する部門、教育部門の人たちとか、いろいろな人がいますので、会社的に見るときにはもう少し項目を広げないといけないと考えています。また、キャリアマップテンプレートについては、プロジェクトの責任者によってはしっかりそのプロジェクトに必要な項目だけを選んだものもあれば、これも必要だろという感じで選ばれてしまうこともある。するとですね、受けた本人が「どれもこれも足りない、足りない」になってしまって、私のプロジェクトでは次に何をしたらいいのかの焦点がぼやけちゃったりする。そういう結果も出てきました。
 この辺が来年度の課題ですね。


100%の受診を達成


──  今回、受診率がすごかったと聞いていますが。


篠坂 今回は課長以下、本当に現場で頑張っている人たちを対象にしようということで、435名の対象者がいたんですけど、見事に100%全員受けてくれました。これだけの塊を1カ月くらいの期間で一斉に受けさせられたというのは、それなりの結果なんだろうと思いますね。いろいろ担当の課長が努力をしてくれたのが大きいですね。事前にキーパーソンをつかまえて説明してくれたり、事前に数名ずつの部門でトライアルをして、そこで出てきた様々な意見をどんどんフィードバックをしてくれたり。さらには、一般社員に出すときにそのいろいろな意見をFAQという形でドキュメントにまとめてくれたりしてくれました。そういう努力をして、実際に診断に入りました。

 しかし、診断に入ってもいろいろ相談が来るので、共通項のところはメールで情報共有したり、定期的に受けてくださいというアナウンスをしたりしてくれました。短期間で400数十名が全員受けられたというのは、本当にすごいことだと思いますね。我々の会社の仕事で似たようなことがあるんですけど、100%受信するなんてめったに無いことですよ。今回のやり方が、受講者を増やす一つの参考なるのかなと思っています。


──  見えたスキルをどうアップさせていきますか。


篠坂 それは教育カリキュラムそのものですね。でも教育カリキュラムだけでいいのか、世の中に通用する資格を取るという行動が良いのか、あるいはいろいろな職場を経験させるほうが良いのか、その辺は次の展開をどうしようかなといろいろな議論をしている段階です。教育という座学が思い浮かびますが、座って聴いて勉強になるかというとあまり勉強になっていない。同じ座学でもOJTぽい座学だとか、実践が入った勉強会だとか、せめてそういう風に変えていかないといけないんだろうと思っています。スキルアップの仕方はいろいろ考えないと効果が無いよな、というところですね今は。


──  キャリアパスについてはどうお考えですか。


篠坂 幹部社員になるまでというのはいろんなことを経験させて、それで自分がどっちの方向に進みたいかをヒアリングしながら、マネージャになっていくのか、技術者としてきわめて行くのかということを決めます。だから、途中途中の段階で、じゃあこういうところでマネージメントを身に付けるためにとかというのははっきり決まっていません。ただ、業務の中でいままで担当者でモノを作っていたんだけども、ある塊のメンバーを指揮するリーダーという立場になって開発をするといったときに、そいういった経験をさせる中で、マネージメントの技術を学びましょうというように、実際のOJTの中でやりましょうというスタンスです。


──  診断結果の活用方法や今後について教えてください。


篠坂 当初、まず個人のスキルを見るようにして、個人として次にどこを強化するかを考えられるようにするのが目的でまず出発しました。ただ、こういう情報を集め始めるとですね、会社というか組織としてはですね、個人だけでなくチームとしてとか会社として強いとこはどこかということも見えるようにしたいなと考えるようになります。また、商談をしているメンバーを想定すると、あるお客様からこういう開発して欲しいんだけどと問われたとき、そういう技術を持っているのは誰なのかとか、それはどの組織で可能かということにも、スキルマップを活用したいなと。

 そういういろいろな意見がありまして、もう一度改めてこういうスキルマップがあったとしたら、誰がどういう立場でどういう目的でどう活用したんだろうかということを明らかにして、それに沿ってもう一回設問の仕方を見直してみようかなということも考え始めています。まだ考え始めたばかりで具体的なことは言えませんが、より充実させていこうということは考えています。


──  本日はどうもありがとうございました。

(※ この記事は、2010年11月16日にヒューマンキャピタルOnlineに掲載したインタビューを基に構成しています)


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